日本大学藝術学部剛柔流空手道部OB会掲示板NUGK OPINIONS

NUGK OPINIONS

~ 空手という武道を通して何を最終目的とするか ~

田中 元和Genna Tanaka

≪ 9.組手によって得られるもの ≫


9.組手によって(相手と対峙して)得られるもの。

  試合組手の場合には試合勘(感)、自由組手の場合には組手勘(感)を得られる。
これは約束組手稽古や普段の移動基本稽古や伝承の型稽古では得られない要素である。師匠から弟子へと伝達される決められた動作の教本的なものへの取り組みは『稽古』であり、これに対して想定外の動作に自ら考えて対応するアドリブ的な取り組みは『練習』と言える。

  1)フェイント(日本的に言えばだまし戦法)
  攻撃を行う上でのトリック(攻撃)とも言えるもので、相手に対して右からの攻撃と見せかけて瞬時に左からの攻撃などを行うこと。また、目線を相手の足もとに落として足技による攻撃と見せかけて顔面への突き攻撃や高い回し蹴り(ハイキック)などを行うことなど。

  2)牽制(ジャブ)
  自分のフィニッシュ攻撃へ向けて段階的に相手へ様子見の仕掛け攻撃をすること。いくつかの牽制パターンで相手の動きの変化を試しつつ、最終的に自分の目的とする攻撃で射とめるための前提攻撃となるもの。
[例]
空手の教本とも言える基本形は一発必殺の技として空稽古(相手を伴わない)をするが、実戦の組手練習においては相手の懐にそうやすやすと一発必殺の技で決めることがほぼ不可能に近いということを知り、相手を牽制して揺さぶりをかけて打ち込みの活路を見出すための様子見をして、やや軽い牽制打を何回か繰り出してフィニッシュ攻撃へとつなぐ方法のための前提攻撃。左突き左突き(ジャブジャブ)連打で小刻みに相手に詰め寄り、決めの右正拳突き(ストレート)を出すなどの動き。

  3)逸(そ)らす(狙いから外す)
  相手から攻撃される少し前に、相手の狙いを外すため、僅かに動いて、相手の機先を制する方法。相手に的を絞らせない方法とも言える。
[例]
相手が攻撃をしようとする瞬間的な前に、左前足右利き猫足構えからスイッチして右足前左利き猫足構えになるなどして、相手に攻撃の的を絞らせないで出鼻をくじく方法など。

  4)省エネによる捌(さば)き(かわす)
  相手の攻撃に対して受けの反応をその都度合わせて行う労力をできるだけ伴わない動き。それによって、攻撃時においては100%のパワーで集中的に相手を攻撃するという余力を持つことを意識した防御法。無駄な運動量の排除。
[例]
無駄な運動量の排除としては、相手の右上段攻撃に対して即基本形にある右上段受けをするなど過敏に反応しないこと、また、相手から左右の上段攻撃を繰り返し連続で出された場合などに、その都度反応して左右の上段受けなどを連続してするようなことも無駄な労力だから、体力を消耗しないように少し右にステップするなどしてその上段攻撃あるいは左右の連続上段攻撃に至らしめさせないようにする少しの動きをもって相手の攻撃を制し、余力を維持したままで反撃の機会を伺う方法など。

  5)カウンター攻撃
  相手の攻撃に対して、ある程度その攻撃を予測して、その相手の攻撃のタイミングに合わせてわずかに早く鋭い攻撃をして相手の虚を突く攻撃方法。
[例]
相手の右正面突き(ストレート)に対して、右利き左足前の猫足構えの場合には基本形にある右正面突きに対して右中段受けをするというのではなくて、左手で相手の右突きの肘を外側(アウトサイド)からわずかに軽く内側に受け流して、右手で相手の胸元をえぐるように(インサイドから)タイミング良く逆に右正面突きか顔面突きを繰り出して相手を制することなど。

これらは組手を実戦してみなければ、その効用が体感できない要素であり、空手において最も重要な要素と言える。


  想像するに、現役は歴代のOBから恐らくいろんなことを教えられてきたと思う。そして、これが空手らしい動きだとしてそれぞれのOBが持つレパートリーものを享受されてきたことであろうと思う。

ここで現役諸君に伝えておく!

  相手の懐に飛び込んで右の正拳を突くという“単純な攻撃”にこそ、『空手ではこれを美しい正拳突き攻撃と思え!』ということだ。
  正拳突きで決めるためのプロセス、つまりは飛び込んで突くタイミングのためのフェイントや牽制やダミーな動きをもって、右利きなら左手をうまく使い、相手に飛び込むための自分の得意とする状態を作ることが右の正拳を正確に突き抜くというキーポイントになり、相手が自分の正拳突きできそうだと思っていたとしてもその罠というか突ける状態にできる、自分のスペースを作れることでもって必ず射止めるのが『空手の美しい正拳突き攻撃だ』ということだ。
このような単純で正確なパターンを3つほど持つことで、その組み合わせの連結によって連打のような展開もできるということだ。つまりは、実戦に即した自分なりのツボを得た展開技をするために毎日相手を伴って『繰り返し、繰り返し練習』をすることで完成させるのが、ここに言う『空手の美しい攻撃だと思え!』ということだ。

  右の正拳突き同様に、相手の懐に右の正面蹴りを確実に蹴り込むという“単純な攻撃”も『空手の美しい蹴り攻撃だと思え!』ということだ。同じように、下段回し蹴りや中段回し蹴り、出来ることなら上段回し蹴りをも確実にフェイントや牽制を仕掛けて決めることができるようになることだ。こうして、右利きによる主に左の牽制やフェイントなどでもって右の正拳突きや右足の正面蹴りや回し蹴りその他の決め技を自分流に作り上げるべきである。そして、これらを何通りか組み合わせできる正確な突き蹴りの積み重ねの練習成果をもって、“反射的”にその場の状況に応じた連続攻撃を仕掛けて確実に決め込む(ヒット)ことが本来の自分が持ち身とする技のレパートリーとなるものだ。

  例えて、柔道では自分の得意技が一本背負い投げと相手にわかられていたとしても、その状態に相手を誘い込み必ず決められるというのが『柔道ではこれを美しい投げ技だと思え!』ということになる。相撲なら自分の得意とする右四つ組手になったら必ず上手投げが来ると相手にわかられていたとしても、その状態に持ち込んで上手投げを決めてしまうのが『相撲ではこれを美しい投げ技だと思え!』ということになる。


  「教えられる側」が学ぼうとしている実戦的練習から積み上げた突き蹴りの連続攻撃を目指すのと違って、今までのような「教えようとする側」の突き蹴りや上段蹴りなど実戦からではない仮想でミックスして作り上げた連続攻撃のレパートリーものは、実戦では決め技としてほとんど効き目の無い羅列ものであるということを、「教えられる側」は『見抜く』ことも必要だ。
  「教えようとする側」はこの単なる羅列の連続攻撃レパートリーものを「教えられる側」に指導しようとすることは、非常に無責任な稽古方法だということを自問自答して大いに『反省して自覚する』必要がある。

  「教えようとする側」が相手を伴っての実戦形式から編み出したレパートリーものではなくて、仮想によって単純につないだ連続攻撃レパートリーものでもって「教えられる側」に押しつけようとすることは、これから空手の「目標」と「目的」をもって「結果」を出そうと志す『教えられる側』に対しては、これらの指導は断罪に値するものだ。
これらの「教えようとする側」は、自分のやり方として自分のレパートリーものを道場で参考として見せてはいいが「教えられる側」に教えてはならないものだ。

  仮に、「教えようとする側」が自分のレパートリーものを組手形式で教えようとして突き蹴りなどをミックスしてポンポンと攻撃してきたら「教えられる側」はその前進攻撃に対して、抵抗することなくポンポンと同じように下がって、「教えようとする側」がこれ以上攻め込めないとしたときに、「教えられる側」は「教えようとする側」の軸足側にサイドステップすれば軸足は簡単についてこられないことから、いったんその両足が揃う時点で「教えられる側」は「教えようとする側」の膝への下段回し蹴り(ローキック)から脇腹への中段回し蹴り(ミドルキック)などを仕掛けて、更に心臓めがけて左の突きを繰りだし右の正拳突きで顔面にフィニッシュ攻撃を加えることだ。

  実際には先輩や「教えようとする側」を殴ることはできないと思うが、相手の顔面前で突きを止めると「教えようとする側」の虚をつかれた驚きを感ずることができるはずだ。要するに、「教えようとする側」の攻撃に対していちいち受け動作で反応することなく淡々と下がって省エネで動き、相手がこの連続攻撃で疲れたところで瞬時に攻撃を仕掛けるというのが戦略としてのレパートリーになり得るものであるいうことを知るべきだ。
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  先輩から享受されて、いろんな基本移動や基本の四方受け四方攻撃や八方受けや八方攻撃や突き蹴り突きから上段蹴りの組み合わせによる連続攻撃レパートリーものでの前進など、これらを限りなく練習(教えられている段階なら稽古)しても相手に対して実際に使用でき、ダメージを与えるものでなければ、この連続攻撃レパートリーものは『絵にかいた餅』で、単なる基本形を組み合わせた連続展開と称するレパートリーものの『組み合わせ飾り付けオンパレード』みたいなものだということを組手で実践してみて気が付くことにある。

  柔道の一日の練習では、最初は柔軟運動や受け身の取り方、相手を伴っての互いの襟を取って突き上げや足の入り方の練習の他に、すぐさま相手を伴った投げの『繰りかえし繰り返し練習』を全体練習の大半を使ってやっている。そのあとに試合形式で何本か実戦的にやってみて、あとは腹筋運動や胸の運動や足の運動を簡単にして、終りは柔軟運動でほぐして上がりとする。剣道もこれ同様然りなのに比べて、空手の基本系のいろんな練習の多いこと多いこと、また鍛錬が多くて型(形)の練習や相手を伴った準組手(柔法的)の少ないこと少ないこと、ほとんど一日の練習が色とりどりの先輩が現れた際には自己表現とも思われる基本形のオンパレードとなって、それが練習や稽古の大半を占めるものとなってしまい、柔道のような『相手を伴った練習』が無いというのが特徴であることだ。これは芸術学部空手道部に限らず剛柔流派全体の特徴でもある。
腹筋などの鍛錬は全体練習の後で個人的に自分の部分的な肉体強化のためにそれぞれ独自にやるものであって、空手は柔道や剣道同様に全体の半分以上は相手を伴った打ち込み攻撃や逆に打ち込ませて防御する組手形式による『繰り返し、繰り返し練習』にあることに気が付くことだ。

  一日の練習で、最も実のある練習ができるのは全体練習の中で最初の時間帯にある。
  練習の成果は、練習時間の前半の方にあり、新鮮な気持ちで神経が最も集中できる状態でやった取り組みものが最も効果があり、時間が経つにつれて効果は薄れていくものだ。
したがって、体力増強を図ることも大事だが最初にやるのはよほどのことがない限り鍛錬を後半に回して、早い時間帯において相手を伴った突き蹴りの攻撃、突き蹴りへの防御のための練習をして、次に柔法(スロー)的にお互いに『繰り返し、繰り返し練習』して、突き蹴りの攻撃や防御方法を頭に描き、これを復習してお互いの想定外の動きに対応しながら自分の体格や能力にあった自分の得意とするパターンを作ってシンプルに攻撃や防御の練習をすることだ。
相手を伴った突き蹴りの攻撃、突き蹴りへの防御のための『繰り返し、繰り返し練習』のほうが、単調な鍛錬よりもきつく、これこそ本当の空手としての特徴ある鍛錬にもなることだ。
個々人が体力強化のために行う鍛錬とは、皆が同じやり方で鍛錬するのではなくて、ここでも個々人にあった、個々人が目指す体力強化を『科学的』に行わなければ、単なるしごきのような苦しみを伴う、ただ鍛錬をやったというだけの自己満足になりかねないことを心して計画的に取り組むことが大事であるということだ。

  今までのOBを含めた先輩先導による空手の基本系の複雑極まりない稽古に練習全体の多くの時間を割くというのは、ゴルフ(主将の寺尾が高校時代にゴルフ部だったことからゴルフを取り上げたほうが、経験則からわかりやすい)に例えれば、ゴルフボールを置かずに、ボールを打たずに素振りでドライバー(フック打ち、スライス打ち)やアプローチやバンカー、パター練習をやっているようなもので、相手(ボールやコース)を伴うことの無い、ここではボールの無い状態における想像の世界(空間)の練習をやっているに等しいということだ。え~次はどうだっけと考えながらやる基本系のぎこちない連続でやっているほどに、実戦では相手が悠長に待ったりやさしく戦ったりしてはくれないということを知り、正拳突き1本をいかにして相手に飛び込んで突けるかを『繰り返し、繰り返しの練習』で、目をつぶっていてもやれるほどに体に染み込ませて体得することが本当の実のある練習であるということに気が付くことだ。



  防具とマット、サンドバッグの必要性
  次に、相手を伴った練習の一つに、一方的に突きや蹴りを行う練習のため防具を購入することを勧める。防具の予算を立てて金額設定ができたら、OB会がこれを現役のためにプールしてあるOB会費で購入してやることが、OBの現役に対して何をやれるかということの一つであると思う。
パンチ(突き用)ミット、すね防具(下段回し蹴りに対応)、ボデイ防具(腹部や胸部への中段突きや蹴りに対応する)、長い上段用のミット防具(上段回し蹴り用)。
これと、自由組手兼用の試合組手用及び型試合ように使用する連結マットの使用の必要性。
  出来れば、現在道場にある軽量の布製の細いサンドバッグではなくて革製の重くて太いサンドバッグを用意する必要がある。これを思いっきり突いて、蹴って手足を鍛えることで打感を覚えることだ。
  現在の軽くて細いサンドバッグは強く突き蹴りを行うと回転しやすく、手首や足首を痛める危険があるので重くて太いサンドバッグを使用することを勧める。軽くて細いサンドバッグはシャドウボクシングのように上下の連打の練習や蹴りの2段蹴り、突きと蹴りの連動練習のためにゆっくりと確認しながら一人練習するためには必要である。軽いサンドバッグと重いサンドバッグは目的用途が違うということだ。

  以上が、空手の相手を伴う一方的な突きや蹴りを行う練習のための防具と本番の試合形式に慣れるための連結マット、及び1人練習用としてサンドバッグの購入が是非必要であるということだ。
  危険防止のために顔面用の防具及びグローブは各自持っているようだが、実際は蹴りの方が突きより強烈であることから練習用としては蹴り用の防具は絶対に必要なものである。
ボクシングでは腹部用の防具やミット、キックボクシングではこれに加えてすね防具や長い上段蹴り用のミット防具を使用して打ち込み蹴り込みを、相手に防具をつけさせて打感練習をしている。もちろんキックボクシングでもボクシング同様にサンドバッグは絶対必需品として使用している。OB会でこれを是非検討されることを希望する。


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